研究概要 |
本年度は「移動と定住」という主題に即してフィールドの選定と分析枠組についての作業を行った. この主題は, 従来の地域社会の二類型(都市・農村)にかかわる問題を生活主体の視点からその生活システムの構築にとって「地域社会」という要素がどのような意味をもつか, を実証することにある. そこで, この主題に適した事例となる地域社会として, 地方, 辺境などのタームで表される地域を選定した. そうした地域は今日過疎化の深化, 人口高齢化の進行の中で地域社会の存続のあり方が模索されている地域であるという共通した状況にある. 従来の生活拠点の基盤の脆弱さが根本的要因となって, 移住や他出を必然化させてきた. そこでの地域は生活主体の生活システムの観点から地域をとらえることが重要である. それは文化様式など「地域的特性」をどのように把握しうるかにかかわってくる. すなわち, 生活主体にとっての地域のもつ意味が追求されなければならない. そうした地域にとして, 対象地域の選定を行ったが, とくに鹿児島県・甑島では, さらに人口高齢化が進行し, むらの物質的基盤である共有地をはじめ生産・生活基盤の変質が著しい. また, 行政的な地域再編のもとで地域社会として存続するうえでその核となるむらの結合基盤がさらに弱化している. こうした甑島の現状は, 在村者ならびに他出者にとってのむらのもつ意味のあり方を射程において地域社会の変容の実態がとらえられるといえる. それはむらの手段的かつ表出的な意味が生活者の生活システム構築過程において現実社会の階級・階層的, 社会・文化的な位置づけから一定水準を示すところに表れていることをみた. わが国の近・現代の過程においていわゆる地方, 辺境, 辺地の形成ということの内実が地域社会の把握にさいしてさらなる分析, 究明の必要がある. 「移動と定住」という分析枠組の確立を, 対象地域のデータ分析をもとにすすめたい.
|