本研究は、 (1) 伝統的な地域社会 (共同体) が、湖水環境を保全するために住民の行動や価値規範をいかに規制してきたか、 (2) 都市化や産業化などの地域社会の変化が地域社会のまとまりを解体し、その結果、湖水環境を守ろうとする住民の生活体系、価値体系をどのように押し流してしまったか、を明らかにしたものである。とくに、本研究では、米国の人間生態学的アプローチ (POETSモデル) を用いて、湖水環境 (E) が、人口 (P) 、技術 (T) 、経済社会政治組織 (O) 、シンボルとしての価値文化 (S) とどのように有機的に結合し、それぞれの要因の変化が他の要因にどのような影響を与えるかを実証的に明らかにした。そして、従来の自然科学的アプローチによる 「湖水環境の質 (quality of water) 」 ではなく、人間認識による 「文化としての湖水環境の質」 、すなわち、湖水環境の社会的次元についての分析を行なった。具体的には、まず、米国における環境社会学の研究動向についての文献検索を行ない、その理論的枠組と調査の日本での妥協性を検証した。その後、比較研究の対象 (地域) を、 (1) 急激に都市化する伝統的漁村社会の例として、大津市堅田柳田地区の全世帯主 (209名) と小番城地区漁民 (111名) 、 (2) 都市サラリーマンのためのベットタウンの例として、大津市堅田衣川台地区の全世帯主 (235名) 、 (3) 都市部から比較的遠隔にある伝統的漁村の例として、滋賀県湖北町尾上地区の全世帯主 (93名) とし、それぞれ、面接調査を実施した。その結果、湖水環境の悪化は、単に工場廃水、農薬汚染、生活用水などの物理的要因によるだけでなく、伝統的な価値規範の喪失や新規住民の流入による地域共同体意識の低下が、湖水環境の悪化と強く関連することが明らかになった。
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