研究概要 |
私はP・バーガーの社会学理論と宗教社会学理論を研究した結果, 次のような論点が重要であると知った. バーガーによれば, 社会は客観的な現実であると同時に主観的な現実であって, このリアリティは弁証法的に機能する. そして社会は, 社会的行為の習慣化と制度化を通じて客観的な現実になる. この客観的な現実は, 行為する個人により内面化されることによって個人の意識において主観的な現実になる. 社会制度を維持する必要があるゆえにさまざまな正当化が登場するが, その正当化の機能を強力に果すのは宗教である. さらに宗教は, 神義論の形で主観的な側面において人に対して意味を付与し, 幸と不幸の問題などを解決し, マイナス面としては人間を疎外する傾向を示すとバーガーは論じている. また, 実際の問題としては宗教の変化あるいは世俗化のことを指摘し分析している. バーガーは前述の概念的枠組を用いながら, 主として具体的なレベルで分析を行なっている. それゆえに, 理論的な展開は不十分である. 特に問題になるのは, (1)弁証法の過程, (2)宗教の変化の問題と, (3)宗教のマイナス面としての疎外の点である. バーガーの理論展開に習性を加えるために現象学的なアプローチによって研究を進めるならば, バーガーのいう主観的な側面に重点をおきつつ, 次の点を明らかにしなければならない. (1)意識の成立とその作用, (2)意識の変化(相互主観性の問題), (3)バーガーのいう客観的現実との関係などである. バーガーの理論展開上重大な問題が生じたのは, バーガーがその研究対照の中核である宗教についていくつかの基本的課題を十分に取り上げなかったことに起因すると考えられる. その基本的な課題とは, (1)宗教の定義, (2)宗教の諸要素の研究, (3)宗教の主要な機能などである. 私も本研究をはじめる前にこの基本的な問題を十分に考察しなかったので, 現在, 本研究と同時にこの準備作業に入っているところである.
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