研究概要 |
今年度は精神遅滞児5名を対象児とした. ひとり(8才, IQ59)は, 書字能力がかなり低く, 視覚系の認知発達の遅れが推定された. 視知覚訓練(フロスティッグ)とひらがなの書字訓練を行い, 同時に脳波をテレメーターで記録した. その結果, 運筆時間の延長に伴って, 前頭部にアルファ波の増加傾向がみられ, その際の訓練効果はおおむね向上した. 対象児の知的能力は比較的高いのだが, 注意の持続が困難であった. 運筆時間の長い場面では, ひらがなの一字を数個に分解して書字指導したり, また指導者の筆跡を追従する運筆器具を用いて指導した. 書字の手順が明確で内容が具体的であると, 対象児は書字のイメージを形成しやすくなると考えられる. その結果, 注意も比較的持続して, 訓練効果が上昇したと思われる. また他の一人(13才, IQ47)は, かなり高度の言語障害を有し, 通常の授業では行動的変化に乏しいが, 休憩時間中の『ファミコン・ゲーム』には関心を示すので, このゲーム場面を設定して脳波を記録した. ゲーム開始及び終了の時期に前頭部-中心部導出脳波のアルファ波が減少し, 注意レベルの上昇が両時期に生じていることが示唆された. しかしゲームを数回繰り返すうちにアルファ波が増加しはじめ, 動機づけは高くないことが示唆された. 更に, 作業学習(縫製)場面で脳波を記録してみると, 糸のもつれをほぐす場面で, 覚醒閉眼安静時に多くみられるシータ波が消失し, 高度の注意集中状態が示唆された. 即ちこの対象児は, ファミコンゲームには興味をもっても, 急速に関心を失うと思われる. 一方, 縫製作業のような, 具体性をもつ成果の明確な作業が, 動機づけを高めると思われる. その他の対象児の行動及び脳波の比較でも, 動機づけを高める授業内容は, いわゆる発達の最近接領域に焦点を合わせて明確な指導手順を呈示するものであることがうかがわれた.
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