対象児(5名)について引き続き検討を加えた。書字能力の低い一例(9才、IQ59)は、2年度来の書字訓練の結果、一部を残してひらがな書字を習得した。本年度も引き続き未習得のひらがなの書字訓練を行い、同時に脳波をテレメーターで記録した。見本を見ない自書、見本の模写、見本のなぞり書き、の3つの場面について、特に本人の安静時脳波の優勢成分であるアルファ波の出現率を検討した結果、自書の場合に最も高くみられた。これまでの書字訓練により、ひらがなのイメージはかなり定着したと推定され、自書場面では緊張することなく書字したと思われる。書字行動時脳波の測定・分析は、文字イメージの定着の度合をより客観的に推定するのに有用であることを示唆する。また高度の言語障害を示す他例(13才、IQ47)は、授業時の自発的行動に乏しいか、知的能力は必ずしも低くないと推定されるので、知能検査(WISC、動作性検査)実施中の脳波をテレメーターで測定した。より複数な課題を解決する直前から、解決の見通しを得た時期に応じて脳波が変化した。課題遂行時脳波の分析は、課題解決の促進をはかるために、発問や教材を個々の児童・生徒に応じた適切な時期に与えることが可能であることを示している。大学研究室では、本年度分設備備品費により購入したヒライドプロジェクター及び液晶シャッター等を用いて視覚弁別課題における脳波・誘発電位を測定・分析し、児童・生徒の知的機能特性との関連性を検討した。その結果、視覚弁別成績や注意機能に関わる知能検査項目得点と視覚弁別課題時脳波・誘発電位とが高い相関を有した。課題遂行時脳波・誘発電位の測定は、注意を促進させるための、刺激提示方法の開発に有用であると思われる。今後さらに対象児ごとに、安静時脳波、視覚弁別課題時脳波・誘発電位、及び授業時脳波を、医学的、心理学的、教育学的諸データとあわせて総合的に検討する。
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