昭和62・63年度の研究課題は、対象児の教授・学習上の問題点に基づいて授業場面等を設定の上、脳波と学習状況を同時記録して、生理心理学的観点から吟味し、対象児に応じた治療教育指導の方法を検討することであった。 主要な研究成果は次の通りである。(1)これまで成人や健常児の意識水準あるいは緊張度の主たる示標とされてきた示標とされてきたアルファ波は、検討した障害児においては必ずしも最良の示標ではなく、シ-タ-波が学習行動と対応する緊張度のより良い示標である。(2)シ-タ-波を学習行動時の緊張度の示標としたとき、言語等の顕現的反応の乏しい児童・生徒でも、適切な教材呈示ならびに教師の言語的働き掛けに対応する十分な脳波上の反応を示す。(3)書字あるいは線描行動時に、被験者の安静閉眼覚醒時脳波の優勢成分周波数に近似の周波数成分を示す事例があり、それらの例では視覚一運動の協応時にも低緊張水準における安定性が示唆される。(4)視覚的課題解決事態において、課題刺激を反復提示し、視覚誘発電位を記録すると、14〜17才の精神遅滞児の波形は、9〜11才の健常児や大学生の波形に類似するが、陰性・陽性成分ともに不明瞭であり、頂点潜時も遅れる傾向にある。(5)視覚的課題解決事態において、課題刺激を反復提示し、視覚誘発電位を記録すると、視覚誘発電位成分の振幅変動は知能指数と高相関を示す。(6)視覚的課題決事態で記録された脳波の優勢成分周波数は、ビネ-式知能検査のうち算数、記憶、手先の器用さ、といった注意集中を要する課題の成績と高相関を示す(7)具体的な学習状況を設定して記録した脳波・誘発電位には、被験者の課題への関与の程度が密接に反映されており、それらを授業分析に応用することにより、客観的かつ詳細な学習過程の分析が可能である
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