研究概要 |
62年度は, 加熱と冷却の理論的研究と, 63年度の実態調査のためのヒアリング, 資料蒐集を中心に研究した. 加熱と冷却の理論的研究については, E.HopperやE.Goffman, B.Clarkなどの文献を読み直し, また現代社会の移動様式(トーナメント移動)を考慮しながら, 加熱と冷却の概念の他に, 「縮小」(cooling-down)と「再加熱」(rewarming-up)のあらたな概念が必要ということがわかった. その意味で日本の教育社会学などで一般に流布されている冷却概念は不十分である. それは, アスピレーションの縮小であるcooling-down(縮小)との区別が曖昧であるからだ. また機能主義社会学もアスピレーションの加熱という効率だけを問題にしており, 失敗への適応というもうひとつの過程を忘れている. また所謂アノミー論も, 一種の地位不満説で, 地位不満に人はいかにして適応していくか, 社会は失敗者にいかなる代替メッセージを行使するかのリフレクシィヴな過程の考慮を欠如させている. これらの概念的整理と, その理論的インプリケーションは, 論文「産業社会の選抜とディレンマー加熱・冷却論再考」『大学入試改善に関する社会的要請の研究』や拙書(『選抜社会・試験・昇進をめぐる<加熱>と<冷却>』)の第二章(「加熱と冷却のシステム」)のなかで失敗への適応類型としてまとめた. また, 戦前の立身出世主義もアスピレーションの加熱の視点だけでなく, 縮小, 冷却, 代替などの分析枠組みをつかうことによって, 歴史的研究から歴史社会学的研究になることができる. 従来いわれてきた「藤吉郎主義」や「金次郎主義」などが適確に位置づけられる. この点については拙書(前掲書)の第九章(「冷却イデオロギーの社会史」)でまとめた. その他に中学校, 高等学校の進路指導担当教師, 企業の人事担当者などに加熱と冷却の具体的ストラテジーについて事例をヒアリングした. 63年度の実態調査の質問項目の大枠ができた.
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