本年度は社会的選抜過程についての実証的研究をした。(1)企業組織における昇進パスと加熱、冷却(2)教育的選抜における選抜モードを某県の同一学区における5つの高校の進路調査によって計量化(3)62年学校調査を学校風土と加熱、冷却の視点から再分析。(1)については東京に本社がある某企業人事課の協力によって大卒人社者の人事記録カード(氏名欄削除)を基礎資料としてえることができた。さらに該当者他約300名の大卒従業員について加熱・冷却モデルにもとづくアンケート調査をおこなった。ここで得られた知見は、1加熱と冷却が選抜システムのありかたに構造化されている(きざみこまれている)ということと、2日本の選抜システムはトーナメント移動とは異なっていることである。(後者の点については職業的選抜だけでなく、教育的選抜についてもいえる。この点については(2)の計量的研究によっても実証された)。つまり1年早く課長になるなどの微妙な格差によって加熱するから、リターンマッチのないトーナメントになりにくい。また長期にわたる選抜と加熱によって徐々に自己の能力を認知していくので、手荒な拒否ではない冷却がスムースに作動していくことが実証された。大卒社員の入社初期のアスピレーションは出身大学の入学難易に規定されているが、課長の選抜がおわるころには過去の昇進の度合いがもっとも大きな規定力をもつようになり、出身大学の難易による能力観やアスピレーションの規定力はほとんどなくなってしまうことなど、学歴社会論を考えるうえでもおもしろい結果がでた。また(3)においては、同一の地域にあり学力的にもほぼ同一の生徒が入学してきながら、生徒文化や進路が著しく異なっている普通高校2校の調査を再分析することによって、学校風土としての加熱型と冷却型がきわめて重要なこととこれからのメリット、デメリットが分析された。
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