1.アドルフ・ライヒヴァインの教育思想は、生涯にわたって自己形成、自己変革につとめることのできるような個人を育てるところに、その主目的があった。その際、とくに共同的な労作体験、創作体験が重視された。これは青年労働者の教育を、かれがとりわけ念頭に置いていたためと考えられる。それは現代の生涯教育論とは通底するところがある。 2.彼の社会観や文化観は、世紀末以来のヨーロッパ思想界に共通に認められる危機意識、とりわけ文明化の引きおこした精神的な破綻に対応しようとする立場からのものであった。これがかれの教育思想を根底において支配しており、その点ではワイマール期の芸術教育運動や労作教育運動は共通の基盤に立っているとみてよい。 3.彼の労作教育観は、G.チルシェンシュタイナーと通ずるところがある。とくに彼が"Sitte"の育成を労作教育の主要な課題としているあたり、その思いを深くするが、重要な相違点は、ケルシェンシュタイナーの"Sachlich Reit"が個人の心構え、とりわけ自然や社会の秩序の尊重という傾向のものとなっているのに対し、ライヒヴァインの"Sitte"は、それだけでなく仕事仲間への敬意まで含んだ横の秩序にも注目している。この点は彼の社会観、国家観の基本にながれる視点といってよい。 4.東西ドイツそれぞれにおけるライヒヴァイン研究を比較してみると、現在では西ドイツの方が圧倒的に熱心に研究を進めており、成果も挙げている。東ドイツは、ライヒヴァインのマルクス主義などソビエト同盟に対する評価について、これを過大視しようとするところに若干の無理が生じているようである。 5.ライヒヴァインとナチス的用語の表面的な共通性に惑わされないような緻密な研究が今後の課題である。
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