1987年度から、1989年度にかけて、日本中世の民衆運動に関する史料の蒐集と研究をおこなった。 日本中世の民衆生活・思想などに関する研究は、西岡虎之助、林屋長三郎氏らの段階を経て、近年、横井清・三浦圭一、網野善彦らの仕事によって多くの成果を生みだしている。本研究は、これらの成果に学びつつ、日本中世における民衆の生活、生産、思想、芸能、宗教、闘争などを民衆運動として総合的に把握し、その特質を解明しようとした。 作業の第一歩は、民衆運動に関する史料を調査し、それを蒐集することからはじめられた。東京大学史料編纂所、京都府立総合資料館などにおいて史料を調査した。ついで、民衆運動の展開した地域におもむき、文献史料の残存状況、伝承などの残存状況を調査した。1987年度は若狭国太良荘(現福井県小浜市)、備中岡上原郷(現岡山県総社市)などの調査をおこない、1988年度は、若狭国太良荘、1989年度には、京都府、および、近紀岡葛川(現滋賀県大津市)などの調査をおこなった。その結果、太良荘地域において3点の新史料を発見した。なお、各年度ともに、中世民衆運動についての関連文献リストを作成し、1989年度において研究報告書を作成した。 なお、今後、このような研究を深めるためには、つぎのようなアプロ-チが必要となろう。すなわち、中世民衆の武装の問題、対領主意識の変化、闘争参加のさいの「いでたち」(服装)、当該段階の権力の本質などを追究することである。 さらに、アジア諸国やヨ-ロッパ諸国の封建社会における階級闘争と対比させつつ、日本中世の農民闘争のもつ階級闘争としての成果と現限とを明らかにすることが必要である。このことは、日本中世の民衆運動の本質を解明するための基礎作業となるであろう。
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