本研究は、近世における農民の基本的負担であった夫役を取り上げ、その歴史的実態および意義の検明を目ざそうとするものである。そのため、本研究では具体的な検討素材を徳島藩に設定して、その実態分析を行なった。研究の大半は関連史料の調査と収集にあてられたが、その過程で蜂須賀家文書(国立史料館)や佐野家文書・原口家文書(淡路文化史料館)、木内家文書・武田家文書(徳島県立図館)などの基本史料を体系的に収集できたことは、大きな収獲であった。こうした史料収集をふまえて、徳島藩略における農民夫役の制度的変遷とその内容および夫役の領主的編成に関して、若干の考察を行った。すなわち、(1)17世紀中葉を画期とする夫役の変質過程を藩政の展開過程に即して検討し、さらに(2)従来あまり解明されることのなかった淡路における夫役(棒役)負担の実態とその編成・支配のありようを考察した。また、農民夫役に関連して(3)「過立夫」「江戸村役」と称される城中や参勤道中・江戸藩邸での実文勤役の実態、および村役としての「行(あるき)」役に関わる社会的卑賤視の問題についても若干の分析を行った。以上のように、本研究ではこれまで主として関係史料の調査・収集・整理作業を行い、個別藩領における夫役負担(賦課)に関して検討を加えたが、その集成は今後の課題である。次年度以降の研究計画としてはこうした実態分析をふまえ、近世実民の総負担体系における夫役負担の構造を明かにして、当研究を土台として『幕藩制支配の展開と地域社会』(仮題)の共りまとめを計画している。
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