研究概要 |
本年度は, 大学院修了者及び在学生ら有志と一緒に『弘仁民部格』上巻の復原と, その一格ごとの復原格に関する関連史料の収集および, その格の研究史と配列から考えられる格文のもつ, 歴史的意義を簡単に解説する作業を行い, 近く一書として刊行すべく準備を行った. この作業の過程で, 別掲のような論文も書いた. すなわち, 私は30年も前からこの史料を知っており, それなりにその史料の持つ意味について考えていたのであるが, 今回の如く, 地方官監察に関する3つの格が弘仁のしかも民部格になぜ収められているのかを考えてみたことはなかった. しかるに, このように復原的に研究を進めていくと, そこで従来全く考えられていなかったような結論-それが受領功過定の前駆的なものとなるという-がでてくることがあることを発見したわけである. また, この作業は, 一応既存の刊本から格文及び関連史料を収集しているが, なるべく, 刊本によらないで直接写本と照合するようにすべく, 史料調査旅行を多く行い, 写本の紙焼写真をできるだけ多く集めるようにした. 勿論それには, 多くの費用を要するので, そのすべてを網羅する段階にはいたっていないが, 今後残された2年間で, 現在写真撮影しかしていないものを, 次第に紙焼にし, 刊本だけに頼る研究の不備を補う予定である. これらの調査旅行のなかでも, 穂久邇文庫蔵の『政事要略』の調査と写真撮影を行ったことは, 多くの調査旅行の成果のうちでも特筆すべきものであった. 『政事要略』には, いくつかの「弘仁格」の逸文を含んでいるが, 新訂増補国史大系本『政事要略』の不備と江戸時代の尾張藩の学者による写本の重要なことが指摘されているが, 穂久邇文庫には室町時代の写本を含む24巻本と山科忠言写17冊本かせ存在し, これらを調査し, 写真撮影を行ったことは, 今後の研究の発展に大変有益であった. 勿論その他の調査も大いに役立った.
|