(1)東北における中世所領のうち別名制を構成するものは「名」(みよう)・「保」(ほ)であって、これについてその所在を確かめ、その成立年代・成立事情を調べた。その結果、名二別名・保などの成立時期は荘園の成立と相一致すること、別名・保といわれる名称上の違いは、徴税権者・徴納方法といった法構造の相違に基づくと考えられるということを指摘した。 (2)中世所領については、日本全体の中世所領を改めて検討することとし、そのうち、研究の遅れている別名・別府の成立について報告した。別名は、11世紀に入って、従来の名(みよう)からはずして独自の徴納ルートを認める一方、徴税権限は依然として国衛がこれを掌握することともに、国衛に直結する直領とした点にその特色があるということを指摘した。別府の検討の結果からは、別府は別名と同義異称であることが判った。 (3)中世所領の成立を側面から促進した交通形態について、古代から中世前期にわたる交通形態を追究した。律令制交通の特色は、軍事・警察上のねらいが一貫してみられる点にあること、いまひとつ注目すべきものに非律令制交通ともいうべき東北独自の交通形態として海水運の発達が早くからみられたこと、それは東北の伝統として、中世所領の成立の際に蘇り、従来回避されてきた内陸部に荘園を成立させる原動力になったこと、さらに中世に入ると、地域文化圏の形成をみるが、その形成を促したのは中世交通網で、その中世交通網の中枢に最上川水運のごとき河川交通があることを指摘した。 (4)本研究では、中世所領ー荘園・別名・保の現地調査を並行的に進め、それによって、荘園・保のうちには復元的研究の可能なものがあることが判った。これについてはまだ報告するに至っていないが、近い将来それを成就したいと考えている。
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