本年度は、朝鮮半島に漂着した中国船に関する資料を中心に収集した。大韓民国の国史編纂委員会が数年前より編集・刊行している季氏朝鮮王朝地代の各地域からの地方官の報告を収集した『各司騰録』に、清代後期の中国船の漂着史料を数件見い出すことが出来た。それらの史料を中心に下記の研究実績をあげることが出来た。 長江(楊子江)河口地域を中心に海上航行に活躍していた平底型帆船の沙船は江南地域を東北地域を結ぶ重要な運輸手段であった。清代前期より多大な発展を見たが、19世紀後半の時期に外国船が中国沿海海域に進出して来たため、漸次衰退したと言われる。これまで、その個別的経営状況について資料の乏しいことから十分な解明が行われていなかった。 ところが、『各司騰録』に記載された中国船の漂着資料から、清代の後期において上海で沙船経営の巨商であった郁氏の経営状況の実態を解明するための大きな手掛かりが得られた。郁氏は19世紀前半より後半にかけて50隻余りの沙船を所有し、上海を中心に東北地域等と結ぶ沿海輸送に尽力し、上海の沙船経営を代表する一家であったと言える。 この他、『各司騰録』の第7、19、25冊中に見える中国船の漂着資料の内、江南地域に関する6点の資料を選び、沙船航運・経営等に関する記事を紹介した。これらの資料と中国側の上海の碑刻資料を参照して、清代末期の沙船経営の状況の一端を明らかにし、「清代末期の沙船業について」(『関西大学文学論集』第39巻第3号掲載予定)としてまとめることが出来た。
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