研究概要 |
朝鮮半島の道教の研究は, 中国・日本のそれにくらべて, あまり進んでいない. 研究者としては李〓和氏の『朝鮮道教史』がみられるくらいである. 論文も韓国・朝鮮の研究者のものとしても, 日本のように多くはみられないが, それらによると, 道教の中核的思想である神仏思想は, 中国から朝鮮半島に伝播したものではなく, むしろ, 朝鮮半島に古くからあった山岳崇拝・神仏思想が陸続きであるという地理的環境から, 黄地から山東方面に伝播したという見解を強く主張している. この論は説得力が弱く, 神仏思想はやはり中国に起源するという論は今なを生き続けているものと思う. ただ, 朝鮮半島の古代民間信仰-シャーマニズム等が古くからあり, 中国で起こった神仏思想を受け入れ易い宗教的土壌が古くから存していたということは考えられる. 本〓, 特に研究の対象にしたのは『三国遺事』に記されている「天降り神話」すなわち, 古朝鮮の檀〓, 新羅の朴赫居世, 金氏閥智, 紫済国の首露神話などに, どのように道教思想が影響しているかという点である. 檀〓神話については, 神仏思想に色彩られているということは, 李〓和氏をはじめ, 多くの研究者の認めるところである. しかし, 他の天降り神話について, 具体的に道教・神仏思想が影響していることについては言及していないので, これを問題にした. 道教が尊貴の色とした紫色が, これらの天降り神話に深くかかわっている. また, 天降りを命じたのは, 道教が最高神とみなした, 北極星を神格化した天皇大帝とみなされておる. また, 神仏思想と密接なかかわりのある蒸〓が神話の中に登場するなど, 神仏思想を背景にして天降り神話が構成されていることを明らかにしたものである.
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