本研究の意図は、ヨ-ロッパにおける国家の近代化の一側面として国王官僚の世俗化あるいは俗人化の過程をイギリスについて追跡することにあった。いいかえると国王行政の分野における聖職者官僚から俗人官僚への比重の移動を検証するということで、そのためにまず『開封勅許状簿』の各巻が精査された。聖職者官僚の調査は予定の水準を超えたが、俗人官僚については相対的に遅れているために、最終年度においても俗人関係の論稿を発表するまでにはいたらなかった。 この3年間の主要な成果は、ロンドン聖マルティヌス大聖堂について歴代参事会長の全員に関する経歴検証を終えたことである。同聖堂は富や格付けにおいて司教座聖堂に及ばないが、その参事会員聖職禄は国王官僚の給養財源に利用され、その点では司教座聖堂との比較においても、また他の王立自由礼拝所との比較においてもまさに筆頭格の地位にあった。『開封勅許状簿』の精査によって、M.レダンの記述が吟味され、この大聖堂の参事会長一覧表が修正された。またT.F.タウトはこの大聖堂と納戸庁との特異な関係を指摘していたが、今回の検証では大法官府・財務府などとの関係も解明され、納戸庁だけを特異視することに批判が述べられた。 最終年度にいたって司教補佐に関する実態検証を開始した。各種聖堂の参事会長や一般参事会員の聖職禄は、国王官僚の給養財源として広範に利用された。司教補佐職についても同様の実態が推定される。
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