今年度はこの研究計画の最終年度にあたるため、研究作業を続行するかたから、全体の取りまとめ作業にも着手した。 (1)必要な文献は国内にかんしてはコピ-のかたちでほぼすべて入手できた。国外については、二、三点保存状態の関係で複写を断わられたものの、全体としては文献収集は予想以上に順調におこなうことができた。 (2)入手した文献については読解作業とカ-ドづくりをすすめた。 (3)本研究の概要をまとめて発表する機会があたえられた。そのうちのひとつ「疫病から見た都市の歴史)では古今東西の疫病と人間社会との深いつながりを鳥瞰し、その関係のなかでみると都市は「人類の墓場」として存在したことを明らかにした。すなわち、農村部に比べて都市の死亡率は一般的に高く、しかも都市内では死亡率が出生率をつねに上回っていた。その主たる原因のひとつが疫病の流行だったのである。この状態はヨ-ロッパでは19世紀末まで続いた。人口動態の歴史でみれば都市は農村部の過剰人口の「処理」の場だったのである。以上の内容はあるシンポジウムで発表したものをまとめたのだが、出席者はこうした新しい都市像にかなりの衝撃をうけたようであり、この研究をまとめて発表すれば、今後の都市史研究に一石を投じることができるとの確信をえることができた。 (4)現在、原稿用紙で600〜700枚の書き下ろしを公刊する準備をすすめており、平成2年度末までには執筆をおえたい。内容は19世紀のコレラの流行が中心になり、それと都市化、さらに近代化とのかかわりがメイン・テ-マになる。
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