研究概要 |
62年度当初提出した計画は, ほぼ全般的に実行された. すなわち各自の分担課題に従って, 作品の選定を行い, 翻字・注釈・作品の意義などそれぞれを詳細に検討した. その過程で, 収蔵図書館の蔵書のそれぞれを比較し, 書誌的な検討も試みた. これらは別に提出する報告書のとおりである. 翻字に当っては, 原表記を尊重し, 注釈には当時の用法用例をできるだけ参考にし, 作品の意義については, 歴史的に当代的に, また現代的に考察を試みた. これらは個人の作業と, 月1回の定例研究集会で報告討議を重ねた. また夏季には集中研究合宿を行った. この結果が63年3月にまとめられた. 『「江戸時代の児童絵本の調査分析と現代の教育的意義の関連の研究」報告書』である. この報告書は研究分担者のほかに8人の研究協力者の報告を含めて12種の赤本・黒本・青本の調査報告を掲載している. そのなかの2例をあげれば, 三好修一郎は黒本のなかに平安期の行平伝説が本浄瑠璃での脚色をへてさらにどのように変型して再登場するかを追跡している. また加藤康子は「狐の嫁いり」において, 当時の擬人化された嫁いり物を多く調査し, これらを通して, 当時の風俗・庶民の関心のその教育的意義の検討に及んでいる. このような方法が他の作品すべてにわたって試みられた結果, 従来の成果にまして, 赤本・黒本・青本の重層的意義が明らかになった. 従来まだ赤本・黒本・青本をこのような方法によって調査検討した例はほとんどなかった. ただし黒本・青本は未調査の作品が多く残っており, 引続き63年度も調査研究を進める予定である.
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