研究概要 |
本研究は, 大島本源氏物語(写53冊, 古代学協会蔵)の, 青表紙本における位置づけと, 行間等に書込まれている詳細な注記の性質とを明らかにすることを目的にしている. それについて, 次のような諸点を知ることができた. 1.大島本は大内政弘の所望で飛鳥井雅康が書写した本文で, その後吉見正頼の所有に帰している. 正頼は, 大島本以外にも, 一条兼良が息男良鎮に書写して与えた本文も政弘を通じて入手していたようである. 正鎮は, 大島本に良鎮本を用いて校合し, 注記も転写していった. そのような書入れのあるのが, 現在の大島本の姿である. 2."源氏物語大成る(池田亀鑑編)は, 大島本を底本としているが, 翻字の誤りが各巻に存し, その方針にもゆれが見られるほか, とりわけ校合等による訂正・書入れの本文を採用しているのは問題である. 依拠した良鎮本は河内本だったようで, その本文との校合により, 大島本は部分的に河内本を継承する結果になっている. 3.良鎮は, 架蔵本に父兼良の教えや『花鳥余情』を余白に記入していたようで, 正頼はそれ前面的に大島本に吸収していった. 良鎮はほかに『河海抄』なども参照している, 『花鳥余情』移行の説を見ることができない. 大島本の書入れ注記によって, 良鎮の源氏学の様相を知ることができない. 大島本の書入れ注記によって, 良鎮の源氏学の様相を知ることができる.
|