研究概要 |
平成1年度は、多良間島のスツウプナカ儀礼を中心にして、その儀礼過程および歌詞資料を収集した。この儀礼は4地点に分かれて、同時平行的に進行するので、昭和62年度の第1祭場ナガシガ-、63年度の第4祭場アレ-キにひきつづき、今年度は第2祭場フダヤ-,第3祭場パイドゥニを調査した。これによってスツウプナカ儀礼はすべて調査しおえたことになる。これにくわえて、現在は消滅してしまった麦穂祭、粟穂祭の歌謡資料を収集した。その結果、以下の事項について知見をえることができた。 1.歌詞資料…スツウプナカの儀礼歌謡を20曲、麦穂祭・粟穂祭の歌謡4曲を収集することができた。これらを国際音声記号とカナ文字によって記録・保存した。 2.歌形論的分類…上記の歌詞資料を歌形論的に分類・整理した。 3.歌唱主体…スツウプナカは儀礼組織が(1)ウイピトゥジャ、(2)カンジンジャ、(3)イムジャ、(4)クバンジャ、(5)ブシャジャなどの職能集団に分かれること、歌唱主体はウイピトゥジャが中心になり、一部分においてブシャジャの代表数人が参加すること、ウイピトゥジャへの加入条件は50歳以上の男性であること、などを確認した。 4.歌唱法…すべての歌謡がムトゥバ-リ(前唱者)とウティガ-リ(後唱者)との2組に分れて、(1)復唱法・(2)分担歌唱法、(3)分担=復唱法、(4)復唱=斎唱法などの方法でうたわれることを確認した。 多良間島の儀礼歌謡は、琉球列島全体のなかでも、もっとも古い要素である、復唱法が中心を占めている。歌詞の内容上の古さとともに、多良間島の儀礼歌謡が系統発生的な研究において、重要な知見を提供するものであることをかたっていて、貴重である。
|