昭和62年度から平成1年度にわたり、多良間島のスツウプナカ儀礼を中心に、儀礼過程の映像・音声による記録作成を行なうと同時に、儀礼歌謡の収集・整理・分析を行なった。そのほかに、現在は消滅した儀礼歌謡も収集した。その結果、以下の事項について知見をえることができた。 1.歌詞資料…スツウプナカは4祭場に分かれて行なわれるが、それらのすべてを調査して、30数曲におよぶ歌謡を収集することができた。1地点につき約10曲の歌謡が存在し、各地点ともほぼ同類の歌詞が伝承されていることが確認できた。また、現在は消滅した儀礼歌謡も数曲収集した。これらを国際音声記号とカナ文字により記録・保存した。 2.歌形論的分類…上記の歌詞資料を歌形論的に分類・整理した。 3.歌唱主体…スツウプナカは儀礼組織が(1)ウイピトゥジャ(老人座)、(2)カンジンジャ(勧進座)、(3)イムジャ(海座)、(4)クバンジャ(供物座)、(5)ブシャジャ(補佐座)などの職能集団に分かれること、歌唱主体はウイピトゥジャが中心になり、一部分においてブシャジャの代表数人が、参加すること、ウイピトゥジャへの加入条件は50歳以上の男性であること、などを確認した。 4.歌唱法…すべての歌謡がムトゥバ-リ(前唱者)とウティガ-リ(後唱者)との2組に分かれて、(1)復唱法、(2)分担歌唱法、(3)分担=復唱法、(4)復唱=斉唱法などの方法によってうたわれることを確認した。多良間島の儀礼歌謡は、琉球列島全体にわたるなかでも、もっとも古い要素である、復唱法が中心を占めている。歌詞の内容上の古さとともに、多良間島の儀礼歌謡が系統発生的な研究において、重要な知見を提供するものであることをかたっていて、貴重である。
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