研究概要 |
清朝三百年間の満州族の治世のうちに、多種多様な満漢合璧体の書物が生み出された。これらの満漢資料のうち、昨年度の17世紀後半から18世紀前半にかけての語学文学分野の文献調査につづいて、今年度の調査は、18世紀前半から後半にかけての語学書を主たる対象とした。奈良の天理図書館、大阪の大阪外国語大学附属図書館石浜文庫、東京の東洋文庫・内閣文庫・静嘉堂文庫・学習院図書館・東洋文化研究所大木文庫・東京大学文学部などに所蔵される満漢資料を閲読調査し、《満漢成語対待》(康煕41年、1702ころ刊か)、《清文備考》(同61年、1722序)、《満漢字清文啓蒙》(雍正8年、1730序、第I類)、《一学三貫清文鑑》(乾隆11年、1746刊)、《兼満漢語満州套話清文啓蒙》(同26年、1761、第III類)、《清語易言》(同31年、1766序)、《御製増訂清文鑑》(同36年、1771序)、《欽定清漢対音字式》(同51年、1786序)、《初学指南》(同57年、1794刊)、《庸言知旨》(嘉慶7年、1802序)など、康煕・雍正・乾隆・嘉慶4代におよぶ「漢語による満州語語学書」の漢語語彙の特徴、漢語音節の音形を検討した。そのうち、1)18世紀前半の《成語対待》・《清文啓蒙》、後半の《清語易言》・《初学指南》の漢語語彙と、 2) 18世紀前半の《清文啓蒙》・《一学三貫清文鑑》,後半の《増訂清文鑑》・《対音字式》の漢語音節とについて、それぞれ満漢対照のカードを作成した。とくに、《清文啓蒙》巻2=《兼漢満州套話》の問答50条の語彙項目を、満州語原文と対照させる具体的な検討を試みた結果、この口語資料は、清代前記の特徴を多く有するが、まだ用例のない/少ない項目(例、〜多了/已經)があること、「什広」を用いて理由を尋ねる「這有什広〜的去處ede ai 〜 babi」・「〜的是什広話〜serengge ai gisun」などの用法がみられることが明らかになった。このほか、得られた知見の一部について、口頭発表3回を行った。
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