研究概要 |
(A)歴史的考察.チョーサー『名声の館』, ミルトン『リシダス』, ポープ『名声の殿堂』, テニソン『芸術の館』, それぞれの詳細な分析を行ない, 英文学における「名声の主題の系譜」を確認するとともに, 共通するモチーフを見定めた. (1)永遠の名声と現世的名声. (2)伝統と創作. (1)は主として論理・道徳・宗教的領域に及び, (2)は歴史・文化・心理的領域に係わり, 相互に深く関連する. 両者は, 様々の形を取って現れ, 例えば(1)の場合, 擬神化されて(1-a)「美しい真の名声の女神」対「醜悪な噂の女神」(ともに「ファーマ」と呼ばれる)となったり, 或は宗教的信仰と関連して(1-b)「唯一絶対の神の権威に基づく名声」対「世俗的政治権力を借りた名声」となったり, 或はまた(1-c)「キリスト教的神」対「運命の女神(フォルトゥーナ)」となって登場する. また(2)の場合は, 地理的要因から(2-a)「ヨーロッパ大陸の文芸伝統」対「島国イギリスの作家」という形を取ったり, 或は主に時間・歴史的関連から(2-b)「先行する既存の文化的権威」対「新参の個性」となったり, 或はまた(2-c)「現在の不確実性」対「未来への賭」となって現れている. (B)理論的考察. 二つの発見があった. (1)「主体」を「他者」あるいは「イデオロギー」とのダイナミックな相互関係における産物とみるラカン, アルチュセールによる「構造主義的人間観」は, 「名声」-「主体」の理論的解明にモデルとして有益である. (2)ヘーゲルの『精神現象学』において「人間性の本質」として提起された「認識されることを求める欲求」そしてその論理的帰結は, 近代哲学による「名声」の壮大な分析と展開であり, その解釈であるコジェーヴの『入門』とともに, 「名声」の哲学的解明の基礎となり得る.
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