研究概要 |
初年度はJohn Ruskinの美意識の形成を追跡する作業に重点が置かれた. Ruskin美学の基本的な形は, 一般に, Modern Painers中の初期の文章やThe Stones of Veniceに具体化されていると考えられており, それぞれについての研究は従来, かなりなされている(もっとも近年はそれほどでもないが). しかし, 作家のすべては処女作にありといわれるのに類したことというべきか, Ruskinの基本的な骨格は, 彼がOxford大学へ入る直前に書かれた, 雑誌への投書にある. これはTurnerの絵画《ジュリカットと乳母》に投げつけられた強烈な批判に対する反論である. Ruskinは投書する前にまずその草稿をTurnerその人に郵送し意見を乞うた. 結局, Turnerの忠告に従って投書自体は断念したものの, これがやがたてModern Pauntersに発展していった. Ruskinのこの草稿文は, いってみればRuskin全評論の処女作というべきもので, そこにその後のRuskinの美学のすべての起点が探りださるという予測のもとに, この文章の分析を原点にすえ, 19世紀後半のイギリスにおける美意識を探るのに格好の資料を蒐集しつつそれらとの対比において, Ruskin美学の形成過程を追跡することに本年は費された. 次年度は, このRuskinの美意識の形成から社会思想への発展への橋がかりとなった個人的および社会的状況の分析に進む.
|