研究概要 |
本研究は17世紀から18世紀における固定から流動へと変化する精神現象を視点と視野という相関的記号関係として捉えることによって, これまで不可能であった17・18世紀の流れを記号構造化するのが主たる目的である. 視点と視野の記号構造には具象と抽象の二つの相があり, ある特定の概念枠を備えうる形象によって重属化することが確かめられた. 森を例にしたい. 森という自律的に成立する空間は, 例えばロビン・フッドという盗賊が配置されると, その視野全体がある象徴のシークウェンスで満たされ, 意味の重属と交錯が生じ, 人間に一つのメッセッジとして伝達されることになる. しかも視点であるロビン・フッドは徐々に消失し森の視野の現象論が前景化してくることが明らかとなった. 従って考察の手順としては, 前景化された現象の背後に位置している視点を明確にし, 政治や宗教との関係を調査しながら, 視点と視野を支配している記号関係を抽出することが仕事となる. 更に17世紀から18世紀にかけて生じる視点の曖昧化が人間精神の内部構造の迷路化とも関係のあることも, 阿片中毒者の記録の考察より明らかになりつつある. 阿片とはこの場合, 単なる薬物ではなく, 阿片によって生じた内面世界のアポカリズムが17・18世紀の精神史の必然的結果であったという点が重要なのである. 以上は大学院における「記号論」「サイコアナリネス」において検討され更に川崎寿彦著『森のイングランド』(1988年文部大臣常受賞)によって発表された. 尚本年度中に「鳥の目, 昆虫の目, マーヴェルの目」「パンドラの箱に封印を」と題し, 大学論集に成果の一部が発表される予定である.
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