「南北戦争とアメリカ文学思潮」 を研究課題として、昭和62年度、および昭和63年度において研究資料を収集するかたわら、 「実績報告書」 でも記したように、およそ十点の具体的な研究発表を行ってきた。これらを改めてふりかえると、南北戦争というアメリカ史上最大の事件に深い関心を寄せ、この戦争を介して、アメリカとは何か、アメリカ人とは何者なのか、という根本的な問いに答えようとした二人の作家の思索過程を解明しようとしていたのだ、ということに思い当る。一人は十九世紀アメリカの代表的作家ハーマン・メルヴィルであり、もう一人は二十世紀アメリカの代表的作家ウィリアム・フォークナーである。研究代表者 (牧野) および分担者 (林) は、これら二作家の作品および著作物 (日記、手紙を含む) にうかがわれる南北戦争観を分析するとともに、そのアメリカ史的意義を究明を究明しようと試みた。 まずメルヴィルの場合には、南北戦争に関わった人物アンガーを最も重要な人物とする 『クラレル』 の研究史を塩分で整理しなおして 『SKY-HAWK』 第三号に発表した。また南北戦争を直接扱った詩集、 『戦争詩集』 を中心として、 『マーディ』 や 『ベント・セレノ』 に認められる反奴隷制の立場を分析して、 「南北戦争とメルヴィル」 を執筆中である。さらに最も大きな成果として、アメリカでのリサーチをもとに、代表作 『白鯨』 を歴史的なイデオロギーの観点から分析し、英文にて40枚の原稿を完成したことがあげられる。この論文は昭和64年度 (平成元年度) 中にアメリカの出版社から刊行される予定である。 またフォークナーの場合には、 『アブサロム、アブサロム』 論、 『響きと怒り』 論等を発表したが、分担者 (林) による 「デヴィドソン夫妻と南北戦争」 が南北戦争を自らお核心部でうけとめる作家フォークナーの想像力の背景を知る上で大きな示唆を与えてくれた。
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