本研究の中心課題である「狐物語」関係古写本に関する本格的学術研究は約百年程前の研究が唯一のものであり、その根本的再調査は久しく待望されていた。当研究の具体的方法としては、主としてヨーロッパ各国の代表的図書館に所蔵されている「狐物語」古写本に関する文献学的研究成果の再検討を行ないながら、併行して未発表本、行方不明本の調査探索を実地に行なった。(文部省在外研究派遣員として国際学会に参加した折の附加用務をこの調査に充てた)。 その成果としては次のようなものを挙げることが出来る。 1.ベルギー、ブリュッセル王立図書館所蔵の未確認断片写本の発見、及び国際学会での承認。 2.本研究の重要性と国際学会で訴えたことにより、学会の注意、関心をこの分野に集めることが出来た。(その後、イタリア、シエナよりもう一つの断片写本の発見、報告が続いている。) 3.最近イギリスで発見された断片写本を広島大学図書館に収蔵することが出来た。これはヨーロッパ以外にある唯一の「狐物語」写本であると同時に我国に存在する極めて珍しいフランス中世文学研究のオリジナル資料である。更にこの発見報告は、日本人の論文としてははじめて、発刊120余年の歴史を誇るロマンス語文献学研究の国際雑誌「ロマニア」に掲載された。 4.2.によって国際間協力を要請した結果、従来未調査のままになっている、ブルゴーニュ公国所蔵の「狐物語」写本の調査に関して、中世書誌学の国際的権威である、ベルギー、ルーヴァン・カトリック大学ファン・ホーケ教授の援助、協力を仰ぐことが出来るようになった。(この部門の研究については、昭和63年末「狐物語の文献学的研究(続)」として科研の申請を行なっている。)
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