研究概要 |
今年度の作業計画は, まずアトランティコ手稿の1200葉に及ぶ紙葉を, その筆跡の違いと特徴にもとづいて分類し, その各グループの執筆年代を推定し, それらに記された宇宙論に関するノートをカードに書き写して, その思想的変遷を跡付けることであった. この分類作業は約半分ほど進んだ. つまり, レオナルドの初期紙葉群(1482年までのフィレンツェ時代の紙葉)と, 第1ミラノ時代の紙葉群(1483-1499年)については, すべて分類作業が終り, 紙葉に記された宇宙論についてのノートはすべてカードに書き写した. この作業を通じて, さまざまな新たな知見が生まれた. その結果, レオナルドのフィレンツェ時代の宇宙論について明確なイメージをもって論じることができるようになり, 私は岩波書店から上梓した著書『レオナルド・ダ・ヴィンチの謎』の第19章「化石の謎」(pp.261-277)において彼の初期の宇宙論を跡付けた. また, 共著『イタリア・ルネサンス文化』(紀伊國屋書店刊)所収の論文「レオナルド・ダ・ヴィンチの地球生命体説の変遷について」(pp.40-52)の主要部分は, 彼のミラノ時代の宇宙論に関するノートにもとづいて執筆したものである. また, レオナルドの鏡文字の書体の変遷については, -不充分な形ではあるが-『學鐙』3月号所収の「レオナルドと鏡文字」(pp.20-25)において触れた. 昭和63年度には, アトランティコ手稿の後半部の分類と整理を予定しているが, その成果は今年度同様かそれ以上に大きいと思われる.
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