研究概要 |
分析の対象: 我々が入手したウラル語の古音声資料はA.カンニストとK.ドンネルの二人によるものである. とちらもワックス管に録音されたものである. カンニスト資料は1930年代後半にそのメロディー分析が発表され, ある程度の研究の蓄積がある. 一方, ドンネル資料はフィールドノートの欠落により殆んど手つかずの状態のである. 研究の対象はよってドンネル資料を最優先とした. 調査の結果1912〜13年にセルクープの歌と散文, 1914年に今や死語となったカマシ語, そしてハカス語, カマシ族の村でのトルコの歌が収録されていることが判明した(ヨキ教授のメモによる). 雑音の中から言語音を抽出するためには, 音響フィルターを通した後でディジタルソノグラフによってスペクトログラムを作成することが最良の方法であるが, 未知の言語音を解読することはその手掛りとなる既知のスペクトルデータが無い限り極めて難しい. 幸いに, セルクープの資料中に二つの露民謡があることがわかり, これを分析し手掛りとなる既知のスペクトログラムの網羅的なリストを作成することに時間を集中した. 分析の結果: メロディーを手掛りに言語音に"見える"スペクトログラムを時間軸上で切り出して, コンピュータ上で合成し, 聴きとりを反復してそのスペクトル模様と言語音との対応づけに成功した. ワックス管には記録不能な無声摩擦音[f][s]がフオルマント領域の雑音に一定のパターンを与えるような現象も観察された(この点は十分な追試が必要). 今後の方向 露民謡で観察されたスペクトログラムのリストを基礎にして, 同一話者によるセルクープの資料を分析することが今後の方向である. 更には, 死語となったカマシ語の分析も非常に重要な課題であると考えられる. これには最後の話し手プロトニーコヴアの1964年のテープ資料を使うことができるからである.
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