ドンネル及びカンニスト資料のうち、当時のワックス・レコードの諸パラメータを把握する目的で、ドンネル資料の25番のロシヤ民謡を詳しく分析した。よく保存されたメロディーから「赤いサラファン」と判明したので五種類の歌詞を手掛りにソノグラムと音韻の対応を探った。これからの発見は次の様に要約できる。 (1)エジソン録音機の性能及びカンニストとドンネル資料のワックス管の回転速度。 (2)狭帯域ソノグラムから予想通りのメロディーが検出できる。 (3)雑音がひどくても(音声帯域に雑音がかぶさっている)そのままで聴取する方が、フィルターで処理した音声を聴取するより音韻判別によろしい。 (4)パラタリゼーションがソノグラム上明瞭に出現し、他の資料の例のための分析上の手掛りとなる。 両者の資料に含まれるネネツ語を分析する前作業として下村がヘルシンキで集収した比較的新しいサンプル(1970年録音)を詳しく分析した。これからの発見は、従来からの論争に興味あるデータを提供するものと思われる。次の様に要約できよう。 (1)ネネツ語は鼻音化声門化音が存在し、ソノグラム上でそれが明瞭に指摘できる。 (2)声門音は一つのみ出現すひるのではなく、前方に一つ後方に一つのP^1MP^2という構造をもっている。Mはモーラである。通常P^1は鼻腔か口腔に解放される。Mは異常に長い。 (3)P^1MP^2は音節であった可能性がある。
|