1.現地調査で得たマル=ラシ=アツィ諸語およびビルマ語諸方言の言語資料を、調査項目に従ってカードに整理分類し電算機に入力した。これによって語彙・用例の検索の便がはかれ対照語彙・用例表が作成できる。 2.現地調査において各調査項目に対し媒介語として使用したビルマ語の単語の意味領域の分析の再検討を、インフォーマントの協力を得て行った。媒介言語と調査言語の対応する単語の意味領域の微妙な差異を十分把握できていない場合、漸次的に意味の連続している時間や色彩のような語彙の体系の的確な記述はむずかしい。調査言語のいくつかは資料の不足や不備によって、この部分の正確な記述を期しがたいことがわかった。 3.内外で公刊された資料・論文の蒐集検討をひきつづき行った。前年度同様、中国公刊の最近の資料からの推論により、ビルマでの調査による資料の不備による不明確な点(動詞の相、直示系など)を補正し語彙・文法の体系の一部を明確にしえた(しかし、方言的差異の可能性も考慮しつつ判断は慎重でなければならない)。 4.マル=ラシ=アツィ諸語の話し手の共通語であるカチン語(ジンポー語)-アッサムのシンポー語もその一方言-や印緬国境のクキ=チン系の言語であるミゾ語・メイテイ語の資料と比較・対照することによって、ロロ=ビルマ語群に共通の特徴がカチン語やクキ=チン諸語のどの部分にまで認められるが、部分的ではあるが、明らかになった。(奈良毅教授の海外学術研究に参加してインドで調査の機会を得た。) 以上の経緯をもとに、資料の電算機への入力をすすめ対照表を作成してビルマ語系同源形式のセットを抽出する。さらにロロ=ビルマ祖語、チベット=ビルマ祖語につながる祖語形式をさぐってゆく。
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