本年度の研究は、前年度の成果の上に立って、次の方向に具体化されていった。 (1)マキャベリー研究ーーマキャベリにおけるcivoc humanismとpower politicsとの連関を中心にして、彼の作品の比較研究とマキャベリー研究書の検討を進め、ほぼ全体像が作られた。この点については、近々論文として完成し、出版に入る見通しがえられた。 (2)civic humanismの歴史と現代的問題ー(1)ひとつには、ルネッサンスイタリアの政治思想、とくに「マキャベリアン・モーメント」が近世イギリスやフランスにどのように再現し、それがヨーロッパの一つのコモンセンスになり、ドイツの近代思想やアメリカ思想にも入っていったか、についての見通しがえられたこと。この方向からの「自由」の観念がもう一つの「自由」の観念である「civil society」といかにからみあって近代思想が展開していったか、が明らかになり、論文に仕上げる展望がついた。これは、アグム・スミス、ルソー、ヘーグルなどの研究にとっても全ヨーロッパ的な視野に立った問題提起がしうるものとして意義があることと思う。(2)もう一つは、上の研究を踏まえて現代の政治・法哲学の問題にも発言できる道がひらけたことである。すなわち、現在、大きな争点の一つに、RawlsやDwokinらの個人的自由・平等の立場と、Sandel、Arendtらのコミュニタリアニズムの「共同」の立場とをどう関係させるか、というものがある。しかし、これは、我々の研究を踏まえると、まさに、近代市民社会的な私的自由とcivic humanismとの関係づけという問題があり、アダム・スミスやルソー、ヘーゲル、キボンらが格闘したものである。それゆえ、我々の研究を踏まえて発言することは、こうした新しい課題をも歴史的視点から押えるものとして、広い視野と思想史的深化を可能にしうる意義ある作業と思われる。
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