本研究は、2つの自由観念、すなわち古典古代的自由観念と近代市民社会論的自由観念の緊張において、イギリスの近代社会思想を分析することをめざしたものである。2ケ年の研究の結果、次の成果を得た。 第1に、古典古代的自由観念は、イタリア・ルネッサンスにおける、シヴィク・ヒュ-マニストによって発展され、これがハリントンを通じてイギリスに入り、17〜19世紀のイギリス思想を深く規定した。そこでまずその源流としての、ルネッサンスの思想分析、とくにマキァベリの再検討を行い、マキャベリ研究上新たな解釈の可能性を確かなものにした。それによると、マキァベリには、古典古代的な徳論の伝統が強いこと、その徳論の前提である立派な戦士の思考様式が彼に深く影響していること、それは彼が戦術論(軍事学)を重視したことと無関係ではないこと、この戦術論では、有徳な将帥を前提にした知謀論が重要であり、マキァベリにおいて徳論とマキァベリズムが共存しているのも、この思考様式と不可分なこと、なにより古代の徳論ではprudentiaが4つの徳の1つとして重視されているが、これが知謀とも関係すること、このような伝統にある戦術論を政治の考察に適用したところにマキァベリの独自の新しい政治の見方が出て来たこと。以上によって本研究は、マキァベリにおける伝統と新しいものとの不可分な関係を明らかにし、彼の新解釈とともに、シヴィック・ヒュ-マニズムの実体を解明した。 第2に本研究は、アダム・スミスに焦点をあて、それをシヴィック・ヒュ-マニズムと近代的自由主義の緊張の中でとらえ、いわゆる「アダム・スミス問題」を新たな視角から解明しようとした。 第3に本研究は、イギリス19世紀における古典主義の復興の問題を、上述の歴史研究の中に位置づけ、イギリス近代の分析をより広い視野に立って行うことへの第一歩を進めた。
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