研究概要 |
1.研究目的について:極東における法文化や法生活の基調がいわゆる徳治主義であるとする通説は, 西洋の学説史や思想史の手法をそのまま踏襲したことの結果生み出された誤解であり, 中国思想の古典を精読すれば, 儒家と法家との排他的対立などということはなく, いわゆる内儒外法とか内法外儒の語にみられるように, 両者は混在していたことが判明した. その結果, 秦漢以来編纂され続けてきた多数の法典にも, 西洋的な法とはかなり異なる内容-「道徳的なもの」の混入を免れなかったようであり, 法と道徳の未文化こそ東西法文化を分かつ岐路となったこと, そしてそれを促したのは, 極東において法学教育が独立せず, 法律家の養成がなされなかったこと, そしてその反面中国における科挙のような独特な官吏登用試験があったからではないかとの仮説を立てうるまでになった(実績報告第2, 3, 4論文). この関係では, 中国と日本における教育史に研究の視野を拡げたことは有益であった. しかし東洋徳治主義の通説は否定されても, 東洋社会において法に課せられる役割が西洋の場合といかに相違しているかを確かめるためには, 法の形式に留まらず, 法の内容や裁判制度及びその運用にまで立ち入った研究を施さなければならない. その他法の存在様式を規定する諸要素の検討を必要としよう(方法については第6論文). これらは, 次年度の課題となる. 2.研究計画と方法について, 当初の計画はほぼ順調に遂行できたが, 昨年7月に発注した洋書の納入状況がはなはだ悪く, 11月中旬にはかなりの部分の法観念に関する検討は, 大幅に立ち遅れている. それを補うために, 東北, 京都および特に大阪の諸大学に出張し, 調査と資料収集に努めた. 他方, 都内諸大学から文献を集め, 精力的にそれらを複写して研究の促進を図ったがその利用は次年度に回さざるを得ない.
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