研究概要 |
本研究のための理論枠組の設定の意味をこめて, 論文「議院内閣制と現代デモクラシー」(『思想』1987年5月号)を発表しておいたが, 今年度は, この論文で提起した仮設をアメリカ, イギリス, 西ドイツ, フランスについて検証し, さらに仮設を精ち化する作業を中心に研究を進めた. そのために必要な資料・文献はかなりの程度入手しえたと思っている. その分析面では, 最も作業が進展したのはアメリカ大統領制に関する部分で, 特にアメリカの民主政治に対してその独特の政党制がもつ意義に関し, 新たな知見を得ることができた. すなわち, 従来, アメリカの二党制システムは, 紀律のゆるやかな党から構成されている点に特徴があり, それが大統領制が民主的に機能するための重要な条件となっているといわれて来たが, 実は, そこには重大なマイナス面もあること, つまり, 党が紀律ある組織政党として存在しないために, かえって大統領が自己の党の公約を守るようコントロールしえず, 結果的に公約に従った国民意見の政治への反映が実現しえないという問題に直面していることを知った. もちろん, それは, 予備選挙の在り方とも密接に関連しており, 民主化のために導入した予備選挙制度が大統領と政党の力関係を逆転させてしまったことに由来する点も大きいが, こういったことの認識は, 統治機構を統一システムとして考察しなければならない(個々の要素を全体とのつながりを考慮せずに民主化しても逆機能することがある)という私の枠組を実証するものであり, 私にとって最大の収穫であったと考えてとる. 日本における従来の議論の分析の課題は, 思うようには進まなかった. ようやく文献の収集を終った段階で, その分析は今後の作業となる.
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