研究概要 |
本研究課題に関する今年度の研究は, おもに下記1と2の形で行った. 1.交付申請書に記した研究計画に沿って, 国際人権規約第1条について, その起草過程および解釈・適用に関する資料, 文献を収集するとともに, 人権と自決権の関係がどのように理解されていたかを軸として, その起草過程を整理した. この研究によって, 同条の成立当時は, 人権(とくに政治的諸権利)と自決権は不可分のものであり, また, 自決権は単に従属人民の独立達成の権利であるだけでなく, 永続的な権利であると理解されていたことが明らかとなった. しかし, 同条の実施過程に関する資料が十分に入手できなかったため, 起草過程の研究をふまえ, それらの資料の分析に基づいて, 旧稿(「国際人権規約第1条と自決権の普遍的適用」, 『アジア・アフリカ研究』23巻9号)を全面的に書き改める予定であった研究の後半部分については, 完成に至らなかった. この研究は, 後半部分の完成をまって公表する予定である. 2.当初の研究計画には含めていなかったが, 現在の国際社会において独立国家の人民の自決権がどのように把握されているかを見るために, 国際司法裁判所のニカラグア事件判決(1986年6月27日)の研究を行った. 同判決は, 実質的には大国の武力干渉から小国の人民の自決権を擁護するうえで, きわめて重要な指摘を行っているが, 表現のうえでは, それらを人民の自決権ではなく国家の主権の観点から行っており, この意味で, 同判決と国連の総会や安保理事会のニカラグア問題の討論における多くの諸国の認識との間には, 一定のへだたりが見られた. なお, この研究は, 国際法学会1987年秋季大会において口頭報告し(要旨は『国際法外交雑誌』86巻6号), おって『アジア・アフリカ研究』誌に発表の予定である.
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