研究概要 |
本年度は2年を予定した本研究計画の最終年度にあたっていた。年度のはじめにたてた計画にしたがい、研究課題の後半をなす長期世界不況のもとでの日本資本主義の動態について、資料の収集・整理をおこない分析をすすめた。その結果つぎのような諸点がほぼあきらかとなった。 1.しばしば例外的に良好な経済実績を強調される日本資本主義も、長期世界不況のなかで、他の先進諸国と共通するところの多い経済的な動揺と危機、およびそれへの対応を経過してきている。 2.とくに情報技術の導入による投資単位の軽小化、労働組合の弱化、および国の経済的役割の縮小によって、市場原理による資本主義企業による再建戦略が多様な柔軟性を発揮してすすめられる傾向は、他の先進諸国と共通していながら、日本ではより徹底して展開されている。 3.そのことが日本の諸企業の経営財務の改善、国際競争力の強化をもたらし、貿易摩擦と円高を招き、アジア太平洋圏への日本企業の多国籍化を促進している。 4.その過程で、企業協力的な日本の労働者の実質賃金は、生産性上昇にくらべはるかに停滞的に抑制され続けている。にもかかわらず、マクロ経済指標における労働者への分配率は下がっていない。生産性上昇の成果が輸出競争力の維持強化、円高等を経て漏出しているところがあると考えられる。 以上の論点をふくめ、研究の成果を5章に分けて英文でとりまとめ、昨年度の研究成果とあわせて、イギリスの経済学者A.Gluyn氏、B.Raethorn氏にコメントを求め、P.Bullock氏には英文の校閲を依頼して、内容と表現にわたり改善につとめた。別に提出する報告書を中心部分とし、本研究の成果の全体はLondon,Macnillan社により英文の著書に収めて1989年末までに出版する予定である。
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