研究概要 |
本研究は、1973年末以降の長期世界不況の発生と進展、およびそのなかにおける日本資本主義の経済動態について、資本主義の基礎理論との関連に留意しつつ検討をすすめることを企図し、2年間をこれにあてることを予定していた。またその成果は英文でとりまとめる企画をたてていた。第1年度はおもに世界経済全体についての研究に、第2年度は日本経済に重点をおいた。その結果ほぼつぎのような諸点があきらかとなった。 1.戦後1960年代にいたる資本主義世界の持続的成長は、ケインズ政策の成功によるものというより、さらに広い基礎的諸條件に支えられていた。 2.持続的資本主義蓄積の信仰自体がその基礎的諸條件を使いつくし、やがて労働力と一次産品の供給余力にたいし資本蓄積が過剰化するとともに、経済的危機が発生する。特異なインフレの激化をともなっていたが、その背後には原理的な資本の過剰蓄積の困難が大規模に再現していた。 3.その後の長期不況のもとで、情報技術の普及による経済再建がすすめられるなかで、投資単位が軽小化し、労働組合が弱体化し、国家の経済的役割が小さくなり、市場原理が貫徹されやすくなり、資本主義の19世紀末からの発展傾向が大きく逆転された。新保守主義の政策はこれに対応している。 4.しばしば例外的な強さを強調される日本資本主義も、この間資本主義世界に共通の危機と再建の動態を示し、不安定で不均等な発展を示している。 5.日本経済については生産性が上昇していながら実質資金が停滞的で、しかも労働分配率があまり下っていない関係は、今後さらに分析検討してみたい興味ある問題である。 本研究の成果は,当初の企画にしたがい、2編10章に分けて英文でとりまとめ、著書The World Economic Crisis and Japanese Capitalismとして出版する準備をすすめている。
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