この総需要供給均衡の計量経済モデルの統計的推測と目的として、本研究では、日本経済のマクロデータを用いて、まず、通常の線型或いは対数線型の時系列モデルのあてはめを試みた。推定されるべき関係は、IS曲線、潜在産出量の成長曲線、インフレ率の予想関数、失業率と賃金率の関係、総供給関数等からなる。線型時系列モデルによる説明力には限界があり、特に予想インフレ率、潜在産出量といった需給均衡モデルにおいて基礎的な関係については、インフレ期や低成長期等多様なマクロ経済の様相を含み、データへのあてはめにはそれぞれの状態(state)に対応出来る非線型モデルの方がより妥当すると考えられる。非線型母数モデルには、双一次自己回帰モデル、或いは指数型事故回帰モデルについての研究は、線型モデルにおけるような一般性のある理論は確立しにくく、従来の研究においても、一定の特殊な現象にのみあてはまる特殊モデルの調査となり、これまでの研究成果も、特定の現象に対してよく適合すると考えられるモデルを識別することがせいぜいで、推定値の信頼性といった推測に関する議論は殆ど行われていないと言える。確立過程論においてよく研究されたモデルとして拡張過程があるがこれも非線型母数モデルに属す。連続時間拡張過程の母数推測についてBasawaの研究をあげられるが、これも大変特殊な型のモデルに限られている。マクロ経済モデルについて非線型時系列モデルを用いる場合、その関数関係は特殊な物理的現象におけるようによく特定化された非線型モデルと出発点とすることは一般にできない。従って非線型モデルとしても、一定の一般性をもった多くの状況に適応できるものを使うことが望ましい。このような観点から、マクロ経済時系列へ適用可能な非線型モデルとして、Priestleyの提案した状態従属(State dependent)モデルが適していることが判明した。
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