マクロ経済の均衡モデルは総需要と総供給の均衡として、観測される経済活動水準及び価格水準を説明しようとするものであり、総需要関数は通常IS曲線とLM曲線の交点として、総供給関数は短期フィリップス曲線とオークン法則に基づいて供給価格とそれに対応する供給量が決定される。この総需要供給均衡の計量経済モデルの統計的推測を目的として、本研究では日本経済のマクロデータを用いて、まず通常の線型或いは対数線型の時系列モデルのあてはめを試みた。トレンドや季節変動が単純な関数形であり、それ以外の変動は定常である場合線型時系列モデルは妥当するが、過去10年或いは20年間の日本のマクロデータを見るとき定常性が仮定できるのはごく短期間であり、観測期間全域についてこのような仮定を置くことには無理があり、非線型時系列からの接近が必要となる。本研究では、まずP.Robinson等によって手法が開発されている非母数時系列解析の理論を用いて、マクロ経済変数間の因果性に関する非母数検定の開発を試みた。マクロ経済モデルについて非線型時系列モデルを用いる場合、その関数関係は、特殊な物理的現象におけるようによく特定化された非線型モデルを出発点とすることは一般にできない。従って、非線型モデルとしても、一定の一般性をもった多くの状況に適応できるものを使うことが望ましい。このような観点から、マクロ経済時系列に適応可能な非線型モデルとして、Priescleyの提案した状態従属(state dependent)モデルをあげることができる。本研究では、マクロ経済データへのこのモデルの適用が有効であることが判明した。また、統計的推測の観点からの考察も行なった。
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