本研究は理論と実証とから構成されている。理論では、最初に労働力の内部化要因が究明されている。内部化は特殊人的資本の特殊性の高さによる、という今までのこの分野の一般的考えとは違って、要因は多数あり、かつそれらの間には複雑な相互関連が存在する。本研究では、特に内部化の程度の決定を明確に示した。また内部化が行なわれる際にはバッファーとなる労働者が必要となるという通説があるが、上のものとは少し異なる理論モデルにおいて、その通説の適否を検討した。その結果、内部化要因が強く作用するときには、バッファーは不要という結論を得た。次に、内部化が実現された際に、年齢賃金プロファイルがどのように決定されるかを、理論的に考察した。労働力が内部化されると、年齢賃金プロファイルは、必ずしも労働者の各年齢段階の限界価値生産物に等しくならない。現実の経済のように資本市場が不完全な場合は、労働者の各年齢段階における生活費に対応させるものの方が合理的である可能性が高いことを形式モデルによって示した。実証分析では、このような理論を受けて、卸・小売業、金融・保険業、建設業という主要な産業において、企業規模・主要学歴で分類した男子の年齢別賃金格差が、理論と整合的であるかを、昭和40年以降の時系列データを使用して検討した。ただし実証のための理論は、上のものより若干一般的なものやそれ以外のものも含む。実証の結果は以下の通りである。まず年齢賃金プロファイルを生活費に対応させるという仮説においては、若年労働者の賃金に対する高年労働者の賃金の比率は、労働力人口増加率、子供の教育費の増加関数、定年退職年齢の減少関数であるといえるが、それらは支持された。また労働力の固定性が最近高まっているが、それが賃金の比率を高めていること、及び賃金の比率が景気と逆相関することも実証された。
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