日本の投融資がアジアNIEsからアセアンへとシフトするなかで、二つの特徴的な現象が認められた。(1)東京オフショア市場が成立した85年以降国際金融市場としての香港、シンガポ-ルの役割が低下するどころか、逆に上昇している。その中で台湾、韓国の金融市場は自由化をすすめるほどに発展し、アセアン諸国のうちタイ、マレ-シア金融市場も近代化の途をたどっている。(2)日本のアセアン投融資が進むなかでアジアの物流・貿易システムに大きな地殻変動が生じてきている。シンガポ-ルを中心にIPO(International Procurement Office)やCDC(Central Distribution Center)がつくられ、アセアン諸国とアジア諸国との間の部品調達や製品配給のシステムが形成されている。また、香港を中心に中国(とくに南部の深〓、広州地区)とアジア諸国を結ぶ物流ネットワ-クが形成されつつある。 注目すべきことは、アジア経済におけるシンガポ-ルと香港の新しい役割である。自立的な「国民経済」を形成しつつあるアセアンや中国は金融市場が未発達なこともあって為替管理が厳しい。このような厳しい為替管理の下で日系企業をはじめとする外資系企業がアジア的規模でアジア諸国から部品を集め、アセアン諸国や中国の生産拠点で生産活動を展開できるのは、シンガポ-ルや香港がアジア地域統括本部として国際決済と国際物流を円滑に進めるシステムをつくりだしているからである。 本研究の最終年度で日本の投融資問題を金融システムにかぎらず国際物流と決済システムと結びつけて分析をしたのは以上の理由による。 本年度の研究成果を踏まえ、アジア太平洋経済圏構想が生産ネットワ-ク、物流ネットワ-ク、金融ネットワ-クの諸側面から実現的基盤を形成しつつあることを確認できた意義は大きい。
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