研究概要 |
中小企業論の通説においては, 下請関係にある中小企業が親企業による下請「収奪」の結果著しく技術的発展の予知を狭められ, 一般的に低技術水準にとどまることを余儀なくされる, と説明されてきたといわれる. しかし, 小宮山・藤田以降の中小企業論の歴史的発展並びに下請中小企業の技術的発展は, 共にそうした通説理解が誤まりであることを教えている. 本年度研究においては, (1)中小企業論における下請中小企業の「技術的停滞」経済決定論的に捉えることが, 学説史研究の結果何ら根拠を持たないという結論に達した. (尚, この点については本研究終了迄に論文発表) (2)また, 今日の中小企業ME化を実態調査を通じて検討した本年度研究の成果からは, 親企業による「下請収奪」が下請中小企業の「技術的停滞」をもたらす要因ではなく, 逆に親企業うも含むわが国経済の技術的発展の下では, 「下請収奪」こそが下請中小企業の技術進歩をもたらす直接の契機であるという仮説設定が充分に根拠あるものであることを明らかにし得た. (3)すなわち, 下請という, 市場における価格形成の契機をもたない特殊な取引関係にあっては, 親企業の設定する「下請単価」を前提にした下請中小企業の生産・再生産が一般的であり, したがって資本の循環がその出発点において規定されているという, 下請中小企業の側からすればその再生産が親企業に依存せざるを得ないという特殊性において下請関係が理解される. (4)そこから, そうした下請関係における下請中小企業の技術的発展, 技術水準向上は, 下請中小企業の蓄積水準の低さに対応するより大きな特別剰余価値実現要求を直接の契機としていることが本研究で明らかにされた. (5)それ故, 特別剰余価値実現のための技術開発は, 中小企業相互の競争関係を媒介としつつ技術水準を高めるが, しかし親企業にとってはそうした技術水準向上が益々下請関係のパフォーマンスを発揮させて行く条件とする.
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