1980年代の日米貿易摩擦の新たな展開について今年度は研究を行ない、多くの貴重な成果がえられた。それは日本側の対米出超の増加にともなうアメリカ側の輸入超過、そして貿易摩擦の発生、日米間の交渉による日本側の自主規制措置の実施というこれまでの定型のなかで、その品目がコンピュータや半導体などハイテク部門にまで発展したことである。このことは、アメリカの技術開発戦略が万能ではなく、いまや日本の民生用量産型の技術改良戦略に部分的に追い抜かれたことを物語っている。軍事技術主導型のアメリカの技術開発戦略が十全なものでないことが判明したことは、日米間の技術格差を縮小させることになった。しかもそれは、アメリカが新たに行なおうとしているSDI(戦略防衛構想)の達成には、軍事技術の分野でも日本の汎用技術を部分的に取り入れる必要がでてきたこと、そして日本のこうした対米軍事技術供与によって日本の軍事技術開発にも新しい転機が開かれた。 さらに、日米間の貿易摩擦の激化のなかで、日本の門戸開放と、アメリカ製品の日本での購入拡大という問題がでてきた。そのひとつは農産物の輸入自由化問題で、牛肉、オレンジなど12品目の輸入自由化を実施し、今や米(コメ)を除いては目ぼしいものが残らないほどになってきた。これは日本農業の根本的な体質を問うものであるといってもよい。またスーパーコンピューターなど、政府調達部門や、それに近いところでのアメリカ製品の購入によって、日本国内での競争が激化するようになる。 最後に、日本企業の対米現地生産の推進によって、日本経済の「空洞化」が問題にされるようになる。このことは、日本経済の将来と日本国民の将来に、大きくのしかかっている。
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