研究概要 |
本年度は研究実施計画に従って, (1)直接税(所得税・相続税)に関する租税改革運動, (2)統一党政権(1895-1905年)の下における間接税の新設・引上げ, (3)自由党政権(1906-1914年)の下における直接税(所得税・土地増価税)の実現について, その内容を具体的に確定することに重点を置いた. その研究実績の概要は次の如くである. (1)直接税の改革はチエンバレンの「非公認綱領」を起点として, 所得税の差別化と累進化, 相続税の統合と専進化, 土地増価税の新設の運動として進展し始めた. しかしこの時期には主として保守党が政権を掌握していたため, 地主的利害の擁護, 動産と不動産の負担の均衡という志向が支配しており, 改革が, 1894年, 農業不況の結果としての農村地主の勢力衰退による相続税の統合と累進化として実現されるに留った. (2)ついで統一党政権下においては, 主として南阿戦争による財源難のために石炭輸出税, 穀物登録税の新設, 酒税, 砂糖税, タバコ税, 茶税の大幅な引上げにより, 課税ベースを拡大するとともに容易に税収をあげる方法がとられた. これは統一党の租税政策路線の実現である. もちろんこの間, 所得税は大幅に引上げられたが, それは同税の改革を必然ならしめた. (3)1906年総選挙において圧勝した自由党政権は, 上記の新設間接税を廃止し, 直接税改革を強力に推進した. すでに所得税の差別制と累進性は必然のコースであり, その実行可能性のみが問題であった. 1907年にはまず前者が導入され, ついで「人民予算」(1909)では穏やかな累進性が導入された. また「人民予算」において最も問題となった土地増価税は都市地主の土地から増価分を収得するものとして実現された. 但し「人民予算」においては, 酒税, タバコ税, 証券取引税などの間接税もまた大幅に引上げられた点に留意すべきである.
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