研究概要 |
第二次大戦後ヨーロッパ学界での中世初期貨幣失の研究成果の遺跡にあてられた本年度の研究は, 予想を上廻る多くの文献が本邦に所在したためもあって, 順調に進行した. 数度にわたる東京出張で東京大学と一橋大学の図書を利用し, 大学院生2名の謝金による助力を得て, 以下のような研究状況を知ることができた. 古銭学による成果が, 中世考古学の発達に助けられて, 厖大に蓄積されてきている. 経済失学の例では, その批判的摂取の重要性を十分に自覚し, 考古学と経済失学との協力とに基づくプロジェクトもたてられてはいるが, なお量的には十分な仕事が行なわれていない. ただし, いくつかの〓新な視角は打ち出されており, 今後数年間に急速に進展する見込がある. 中世初期貨幣失の検討は, 従来のように都市失ばかりではなく, 農村失でも盛んに行なわれている. そこでは, 一方では, 古典荘園制を頂点とする領主制の展開, 他方では, それと重なり合った市場の普及, これら二つの現象の解明が進むに応じて, 貨幣経済の農村への深い浸透が確認されつつある. この貨幣経済の具体的内容については, 貨幣的手段としての貴金属, ことに銀の重要性, 貴金属の中では造幣された金属貨幣の優位, 金属貨幣の中では小額貨幣たる銀貨=デナリウス貨の排他的支配が確認されている. こうした貨幣そのものについての認識の深化に比べるならば, 貨幣使用の実態と, その中世初期経済生活との諸関連の解明は, 立ち遅れている. ことに, 領主経済の流通部面には若干の興味深い視点が打ち出されているが, 農民経済でのデナリウス貨の役割は, 殆ど明らかになっていないと言える.
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