前年度に引き続き、史料調査とその整理作業をおこなった。調査先は、1)東京(国立国会図書館)および2)対馬島に赴き、マイクロ撮影によって収集し、焼付、製本、整理作業を進めた。収集した史料は、1)は、『宗家記録』の中でも、対馬藩の江戸藩邸から明治期に外務省へ引き継がれていた貿易勘定帳簿、金座・銀座・銅座などとの関係記録、和館の館守記録、外交交渉官の裁判記録、和館の建築関係の記録類、館内の諸事覚書などである。また対馬島の調査では、『宗家記録』をはじめ島内の諸家記録を、寄託などの関係で多く保管している長崎県立対馬歴史民俗資料館を中心におこない、さらに島内の町村に点在する旧家を訪ねて、家老、商人、郷士、通訳官などが残した諸家記録類を収集した。これらの史料収集ならびに整理作業などを通じて、かねてから漠然と捉えられていた江戸時代全期にわたる日朝貿易の趨勢について、具体的な数字をともなう実態を把握することができた。とりわけ今年度の対馬調査によって、貿易が下降状態に入る近世中・後期の史料を多く収集することができ、藩財政に占める日朝貿易の役割、輸入品の国内における需要とその販売・利潤、さらには和館で貿易活動をおこなっていた朝鮮側の役人や商人の動きまでも明らかにすることができた。この研究を通じて、近世後期の和館貿易においても、銀や銅といった鉱産資源の動きが確認され、朝鮮国内の貨幣政策ともあわせて、広く東アジア経済全般にまたがる問題を究明できよう。また対馬側からの和館貿易への参加と活動実態については、これまで見逃されてきた朝鮮語通訳官の動きに注目して調査をおこなった。わけても対馬美津島町鶏知に残る通訳官小田家の文書が、質的にも量的にも最も良かった。今後もこの方面からの解明を試みるとともに、他の通訳官の伝領記録を発堀して、さらに研究を発展させていく必要がある。
|