研究概要 |
本研究は, 行列論, 作用素論, 作用素代数論においてmajorizationを組織的に解明し, それを行列不等式, 作用素不等式, 非可換積分論などに応用することを目的とした. このmajorizationという概念は作用素のスペクトル配列に関係しており, 作用素間のノルム不等式の導出に特に有効である. 以下に本研究で得られた主要な成果を述べる. 1.行列論においてHadamard積は基本的な演算である. 安藤は行列のHadamard積の特異値(s-number)に対する一般不等式をmajorizationの観点から導入し, これによりHadamard積に関して最近までに知られた多くの不等式を統一した. 2.Hilbert空間上の作用素論において, 回路理論と密接に関連するテーマとして作用素平均の理論がある. 安藤は正定値作用素の幾何平均がよく知られた回路を用いて特徴づけられることを示した. さらに幾何平均を含んだ興味ある作用素不等式を証明した. 3.作用素不等式の研究では, 作用素単調関数が有用な道具である. 安藤は作用素単調関数の下での行列の摂動に対して非常に応用の広いmajorizationを確立した. これからユニタリ不変なノルムに関する行列のノムル不等式が数多く導かれる. 4.行列のmajorization理論はトレースをもつ一般のvon Neumann代数(以下v.N.代数)上で定式化できる. 日合・中村は行列の場合に知られた基本的なmajorizationをv.N.代数に付随する可測作用素の場合へ拡張した. これはv.N.代数上の非可換積分論で大変有用となろう. 5.日合・中村はv.N.代数において, majorizationの手法を使うことにより, 可測作用素のユニタリ軌道間のL^pノルム距離を一般化されたs-numberを用いて精密に求めた.
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