1.当初の計画であった、量子ホール効果の一般化を断熱位相の枠内でとらえるという試みに関連して、興味ある結果が得られた。即ち、2次元超流動He^3系のオーダーパラメーター(或いはギャップ関数)の位相を断熱変形したときに生ずるホロノミー効果として、量子ホール効果の直接的類似現象とみられる輸送係数の量子化を予言するという帰結である。また、分数量子ホール効果と非アーベル断熱位相との間の関係について一定の結論が得られた。 2.量子凝縮系への断熱位相の応用として、平均場(mean field)に対する効果を検討した。具体的モデルとして、Mott insulator模型をとりあげた。主な結果は、次のとおりである。即ち、電子一空孔対の凝縮をあらわすオーダーパラメーターをダイナミカルな変数とみたとき、そのモードのになう量子数が断熱位相の効果で分数化すること。さらに、その量子数が集団励起の運ぶスピンと同定されたとき、分数統計に導くという帰結である。この結果は最近の(2+1)次元非線型シグマ模型と密接に関連しており、高温超伝導の模型等と関連して、興味ある材料を提供すると思われる。 3.昨年度の成果である、断熱位相の一般化として得られた"正準位相"(canonical phase)の概念に関する諸様相を検討した。主な結果は次のとおりである。(i)正準位相の概念はいわゆる"非直交完全系"(over-complete set)に一般化に生ずる"量子接続"を実現するものであること。(ii)非直交完全系を一般化されたコヒーレント状態として構成したとき、そのパラメータ空間がコンパクト多様体になるときには、位相量子化が帰結する。
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