研究概要 |
TaSe_3は結晶構造の特徴から考えて, 一次元伝導性を示すと考えられ, 超伝導状態にその特徴がどのように表れるかを調べるのが目的である. 超伝導転移温度が約2.0Kであるので, ^3Heクライオスタットを製作する必要がある. 初年度の昭和62年度は, この製作が主たる計画であり, 現在ほぼ完成して試運転を開始する段階である. 1Kpot方式によるHeの冷却で1.01Kまで到達でき, 十分の冷却powerがあることを確認した. また, コンピューターを用いた温度計測などの自動化が順調に進んでいる. 本年度はまづ, 常伝導状態での電気抵抗率に一次元伝導体の特徴がどのように反映されるかを調べた. He温度から300Kまでの電気抵抗率の測定を行った. 50K以下の温度において, b-軸での抵抗率が次に示すように, 温度についてpower lawで表現できることを見いだした. すなわち, ρ(T)=ρ_0+AT^n(ρ_0,A:定数,n=2.8±0.1)と表せる. ρ(T)がpower lawにのること, および, nの値が2<n<3であることが一次元性の反映である. これらの結果は伝導軸が一次元に制限された空間で, 電子間のUmklapp散乱が電気抵抗率に主に寄与しているという押山らの理論に基づいて解析され, 論文に発表された. 2.0Kの超伝導転移温度付近で, 超伝導転移のb-軸方向における臨界電流依存性を測定し, その結果を基に臨界磁場依存性について考察した. すなわち, 3A/mm^2のごく僅かの電流密度で超伝導は完全に破壊されるもしも, 電流が試料内で一様に流れているとするならば, 電流自身の作る磁場の大きさは試料の端で最大になる場所でさえも, 0.047[Oe]である. 一方, 外部磁場をかけた測定から, 150[Oe]が1.5Kにおける臨界磁場であることがわかっている. 以上より, 一次元性を反映して, 電流が局所的に大きく流れていることがわかった.
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